- 8月 5, 2025

ポストハードコアバンド18選!年代で変わる音の正体を徹底解剖
「ポストハードコア」って聴いたことある?
この質問をすると、不思議なことに世代によって全く違う答えが返ってくる。90年代キッズなら「Fugaziでしょ!」と即答するだろうし、2000年代組は「At the Drive-inかな」なんて言うかもしれない。2010年代以降の若い世代なら「Bring Me The Horizonとか?」なんて答えが飛んでくる。
なぜこんなことが起きるのか?答えは簡単だ。年代によってポストハードコアを示す音楽ジャンルの音が全然違うからなんだ。
これはポストハードコアというジャンルの面白いところでもあり、同時に厄介なところでもある。一体どういう経緯でこんな摩訶不思議なジャンルが生まれたのか?そして各年代でどんなバンドがシーンを牽引してきたのか?
今回は、この謎めいたポストハードコアの正体を、歴史を辿りながら18のバンドと共に紐解いていこう。
ポストハードコアの起源と1990年代のポストハードコア

ポストハードコアの歴史を語る上で欠かせないのが、その名の通り「ハードコア以降」の流れだ。1980年代後半から1990年代初頭にかけて、従来のハードコアパンクの限界を感じたミュージシャンたちが、より実験的で複雑なアプローチを模索し始めた。
この流れの根源となったのがDischarge Records(ディスチャージ・レコード)だった。ここから生まれた初期ポストハードコアの音は、ハードコアの攻撃性を保ちながらも、より複雑な楽曲構造、変拍子、そして感情的な深みを持っていた。単純な怒りのぶちまけではなく、知的で内省的な側面を持った音楽として発展していったんだ。
Fugazi
1987年にワシントンD.C.で結成されたFugaziは、まさにポストハードコアの教科書的存在だ。Minor Threatのイアン・マッケイとRites of Springのガイ・ピチョットという、ハードコア界の重要人物2人が中心となって結成されたこのバンドは、政治的メッセージと実験的な音楽性を見事に融合させた。
彼らの音楽的特徴は、複雑に絡み合うギターリフ、突然のテンポチェンジ、そして2人のボーカリストが織りなす独特のハーモニーだ。商業主義を拒否し、全てのライブチケットを5ドル以下に設定するなど、DIY精神を貫いた姿勢も多くのバンドに影響を与えた。
おすすめアルバム:「Repeater」(1990年)
Drive Like Jehu
1990年にカリフォルニア州サンディエゴで結成されたDrive Like Jehuは、ポストハードコアシーンでも特に技術的に優れたバンドの一つだ。
彼らの音楽は数学的とも言える複雑な楽曲構造が特徴で、変拍子を多用したリズムパターンと、鋭角的でありながら美しいギターワークが印象的だ。短いキャリアながら、後のマスロックやエモ・バンドに計り知れない影響を与えた。わずか2枚のアルバムしかリリースしていないが、その密度の濃さは圧巻だ。
おすすめアルバム:「Yank Crime」(1994年)
Jawbox
1989年にワシントンD.C.で結成されたJawboxは、ポストハードコアの中でもよりポップな感覚を持ったバンドとして知られている。Jメジャーレーベルでの活動も経験し、ポストハードコアの商業的可能性を示した先駆者でもある。
彼らの音楽的特徴は、キャッチーなメロディラインと複雑なリズムパターンの絶妙なバランスだ。ハードコアの攻撃性を保ちながらも、一般リスナーにも届きやすい親しみやすさを持っている。特にボーカルハーモニーの美しさは、後のエモ・バンドたちに大きな影響を与えた。
おすすめアルバム:「For Your Own Special Sweetheart」(1994年)
Unwound
1991年にワシントン州オリンピアで結成されたUnwoundは、ポストハードコアの中でも特にノイジーで実験的な側面を追求したバンドだ。Kill Rock Starsレーベルから多くの作品をリリースした。
彼らの音楽は、不協和音を多用したギターサウンドと、予測不可能な楽曲展開が特徴的だ。時には10分を超える長尺な楽曲も制作し、ポストロックにも近いアプローチを見せることもあった。商業的な成功よりも芸術性を重視した姿勢は、アンダーグラウンドシーンで高く評価された。
おすすめアルバム:「Repetition」(1996年)
Shellac
1992年にシカゴで結成されたShellacは、Big Blackでのバンド活動とロック界の名プロデューサーで知られるスティーブ・アルビニが率いるバンドだ。極めてミニマルで攻撃的なポストハードコアを展開した。
彼らの音楽的特徴は、無駄を一切排除したストイックなアプローチだ。楽曲は基本的に3人の楽器のみで構成され、オーバーダビングなどの装飾も最小限に抑えられている。アルビニのプロデューサーとしての手腕も相まって、生々しく迫力のあるサウンドを作り上げた。シンプルながら破壊力抜群の音楽性は、多くのノイズロックバンドに影響を与えている。
おすすめアルバム:「At Action Park」(1994年)
Quicksand
1990年にニューヨークで結成されたQuicksandは、ハードコアにメタルの要素を取り入れた先駆的なバンドだ。Gorilla BiscuitsのとYouth of Todayのメンバーが中心となって結成された。
彼らの音楽的特徴は、ハードコアの激しさにメタルの重厚さを加えた独特のサウンドだ。特にギターリフの作り方は非常にメタリックで、後のメタルコアシーンに大きな影響を与えた。ボーカルも従来のハードコアの叫び声から、よりメロディアスなアプローチへと発展させ、現代のポストハードコアの礎を築いた。
おすすめアルバム:「Slip」(1993年)
エモやメタルコアに接近した2000年代ポストハードコア

1990年代の実験的なポストハードコアから一転、2000年代に入ると他ジャンルとの融合がより積極的に行われるようになった。
2000年代のポストハードコアは1990年代を踏襲しつつも音楽性の幅が広がりや聴き易さを得た一方でハードコア特有の攻撃性や衝動性は薄れていく傾向にあった。特に2000年代中盤以降は、エモの感情的なボーカルスタイルとメタルコアのブレイクダウンが色濃く反映されるようになっていった。
この時代のポストハードコアの特徴を挙げると:
- エモ・クリーンボーカル:1990年代の荒々しいボーカルから、感情的で旋律的なボーカルスタイルへ
- ブレイクダウンの導入:メタルコアから借用した重いブレイクダウンセクション
- 楽曲構造の明確化:実験的すぎた90年代から、より親しみやすい楽曲構造へ
- プロダクションの向上:より洗練されたレコーディング技術とミックス
- メロディックなギターワーク:複雑さよりもキャッチーさを重視したギターライン
At the Drive-In
1994年にテキサス州エルパソで結成されたAt the Drive-Inは、90年代ポストハードコアと2000年代の橋渡し的存在だ。セドリックとオマー(通称アフロコンビ)を中心とするこのバンドは、後にThe Mars Voltaを結成することでも知られている。
彼らの音楽的特徴は、爆発的なエネルギーと予測不可能な楽曲展開だ。ラテン音楽の影響を受けたリズムパターンと、セドリックの独特なボーカルスタイルが印象的で、ライブでの圧倒的なパフォーマンスでも話題となった。90年代の実験性を保ちながら、より大衆的なアピールも獲得した重要なバンドだ。
おすすめアルバム:「Relationship of Command」(2000年)
Glassjaw
1993年にニューヨーク州ロングアイランドで結成されたGlassjawは、ポストハードコアにヘヴィメタルとエモの要素を持ち込んだ革新的なバンドだ。極めて個性的な音楽性で多くのフォロワーを生み出した。
彼らの音楽的特徴は、美しいメロディと暴力的な激しさが共存する二面性だ。ダリル・パルンボのボーカルは、時には囁くように優しく、時には獣のように荒々しい。ギターワークも同様で、美しいクリーントーンから一転して激烈なディストーションサウンドへと変貌する。この極端なダイナミクスが彼らの最大の魅力だ。
おすすめアルバム:「Everything You Ever Wanted to Know About Silence」(2000年)
Thursday
1997年にニュージャージー州ニューブランズウィックで結成されたThursdayは、エモとポストハードコアを見事に融合させたバンドとして知られる。、2000年代初頭のスクリーモブームの立役者の一人だ。
彼らの音楽的特徴は、感情的なボーカルと複雑な楽曲構造の組み合わせだ。特にボーカルは、時には美しく、時には痛々しく、聴く者の心に深く刺さる。ギターアレンジも非常に巧妙で、ポストハードコアの複雑性とエモのキャッチーさを両立させている。彼らの成功により、多くのバンドがこのスタイルを模倣するようになった。
おすすめアルバム:「Full Collapse」(2001年)
The Used
2001年にユタ州オレムで結成されたThe Usedは、ポストハードコアをよりメインストリーム寄りに発展させたスクリーモ・バンドの代表格だ。商業的な成功も収めながらシーンの拡大に貢献した。
彼らの音楽的特徴は、キャッチーなメロディと激しいサウンドの絶妙なバランスだ。特にバート・マクラッケンのボーカルは表現力が豊かで、囁くような優しいパートから絶叫まで幅広いレンジを持つ。楽曲構造もポップソングに近く、ラジオでもかかりやすい親しみやすさを持っている。この商業的なアプローチが、ポストハードコアの裾野を大きく広げた。
おすすめアルバム:「The Used」(2002年)
Underoath
1997年にフロリダ州タンパで結成されたUnderoathは、キリスト教的なメッセージとポストハードコアを融合させた独特なバンドだ。
彼らの音楽的特徴は、美しいクリーンボーカルと激しいスクリームボーカルの対比だ。楽曲構造も非常にドラマティックで、静と動のコントラストが効果的に使われている。特にドラムワークは非常に技術的で、複雑なリズムパターンが印象的だ。宗教的なテーマを扱いながらも、音楽的な革新性を失わなかったことが評価されている。
おすすめアルバム:「They’re Only Chasing Safety」(2004年)
Saosin
2003年にカリフォルニア州ニューポートビーチで結成されたSaosinは、技術的に優れたミュージシャンシップと美しいメロディを融合させたバンドだ。ポストハードコアの新たな可能性を示した。
彼らの音楽的特徴は、非常に高い演奏技術と洗練されたソングライティングだ。特にアンソニーの独特なファルセットボーカルは、他のバンドにはない個性を持っている。ギターワークも複雑でありながらキャッチーで、技術的な側面とポップな感覚を見事に両立させている。短い活動期間ながら、多くのバンドに影響を与えた重要な存在だ。
おすすめEPアルバム:「Translating the Name」(2003年)
積極的な電子音の導入とメインストリーム化した2010年代以降ポストハードコア

2010年代に入ると、ポストハードコアはさらなる変化を遂げる。この時代の最大の特徴は、電子音の積極的な導入だ。従来の肉体的で生々しいライブサウンドから、よりサウンドプロダクション重視のアプローチへとシフトした。
また、メタルコアとの境界線がほぼ無くなったのもこの時代の特徴だ。「クリーンパートと電子音が多ければポストハードコア?」という、なんとも曖昧な区分けが生まれたのもこの頃だった。
この時代の特徴を整理すると:
- 電子音とシンセサイザーの大胆な使用:EDMやダブステップの影響を受けた音作り
- 高度なプロダクション技術:スタジオワークを重視したサウンドメイキング
- メインストリーム指向:チャートインを狙った商業的なアプローチ
- ソーシャルメディア時代の宣伝手法:YouTube、Instagram等を活用したファン獲得
- ジャンルの境界線の消失:メタルコア、エレクトロニコア、ポップパンクとの融合
- グローバル化:アメリカ以外からも多くのバンドが登場
Bring Me The Horizon
2004年にイギリス・シェフィールドで結成されたBring Me The Horizonは、ポストハードコアの進化を最も象徴的に表現しているバンドだ。デスコアからポップロックまで、幅広い音楽性の変遷を見せている。
彼らの音楽的特徴は、時代と共に大きく変化してきたことだ。初期はデスコア的な激しさが前面に出ていたが、徐々に電子音を取り入れ、最近ではほぼポップロックに近い楽曲も制作している。オリバー・サイクスのボーカルも同様に進化し、現在では美しいクリーンボーカルが主体となっている。この柔軟性こそが現代ポストハードコアの象徴と言える。
おすすめアルバム:「Sempiternal」(2013年)
Falling in Reverse
2008年にネバダ州ラスベガスで結成されたFalling in Reverseは、ポストハードコアにラップとポップパンクを融合させた独特なバンドだ。
彼らの音楽的特徴は、様々なジャンルを一つの楽曲に詰め込んだカオス的なアプローチだ。ラップパート、ポップパンクのメロディ、メタルコアのブレイクダウンが同居する楽曲は、好き嫌いが分かれるものの、確実に新しい可能性を提示している。ロニー・ラドケのボーカルも非常に表現力豊かで、その時々の楽曲に合わせて歌唱スタイルを変える器用さを持っている。
おすすめアルバム:「Popular Monster」(2024年)
Sleeping With Sirens
2009年にフロリダ州オーランドで結成されたSleeping With Sirensは、ポストハードコアにポップパンクの要素を強く取り入れたバンドだ。特に若い世代からの支持が厚い。
彼らの音楽的特徴は、独特な高音ボーカルと、キャッチーなメロディラインだ。楽曲構造は非常にポップで、従来のポストハードコアファンからは賛否両論だが、新しいリスナー層の開拓には成功している。特に電子音の使い方が巧妙で、重いギターサウンドとの対比が効果的だ。現代のポストハードコアの商業的側面を象徴するバンドと言える。
おすすめアルバム:「Let’s Cheers to This 」(2011年)
Issues
2012年にジョージア州アトランタで結成されたIssuesは、R&B、ファンク、エレクトロニカの要素を大胆に取り入れたバンドだ。ポストハードコアの新たな可能性を切り開いた。
彼らの音楽的特徴は、R&B的なボーカルスタイルと、激しいスクリームボーカルのツインボーカルの対比だ。楽曲にはファンクやジャズの要素も取り入れられ、従来のポストハードコアとは一線を画している。特にリズムセクションの複雑さは際立っており、プログレッシブな側面も持っている。この実験的なアプローチは、ジャンルの枠を大きく押し広げた。
おすすめアルバム:「Issues」(2014年)
Dance Gavin Dance
2005年にカリフォルニア州サクラメントで結成されたDance Gavin Danceは、ポストハードコアにファンクとジャズの要素を融合させた独特なバンドだ。マスロック的な複雑性も持っている。
彼らの音楽的特徴は、非常に技術的で複雑な楽曲構造だ。変拍子を多用し、突然のテンポチェンジやリズムパターンの変化が頻繁に起こる。ボーカルも2人の異なるスタイルが交互に現れ、まるで会話をしているような面白さがある。この技術的な側面と実験性は、ポストハードコアの芸術的な可能性を示している。
おすすめアルバム:「Instant Gratification」(2015年)
I Prevail
2013年にミシガン州サウスフィールドで結成されたI Prevailは、ポストハードコアをよりメインストリーム寄りに発展させたバンドだ。現代的なプロダクションとキャッチーなソングライティングで注目を集めた。
彼らの音楽的特徴は、非常に洗練されたプロダクションと、ラジオフレンドリーな楽曲構造だ。クリーンボーカルとスクリームボーカルのバランスが絶妙で、激しさと親しみやすさを両立している。電子音の使い方も効果的で、モダンなサウンドを作り上げている。商業的な成功も収めており、現代ポストハードコアの一つの到達点と言える。
おすすめアルバム:「TRAUMA」(2019年)
結局、現代におけるポストハードコアとは?そして変化し続けるジャンルの魅力

ここまで18のバンドと共にポストハードコアの歴史を辿ってきたが、改めて感じるのはこのジャンルの懐の深さだ。1990年代の実験的で知的なアプローチから始まり、2000年代にはエモやメタルコアとの融合で感情的な深みを増し、2010年代以降は電子音を取り入れてさらなる進化を遂げている。
これまでを踏まえた上で、当サイトにおける現代ポストハードコアは以下のように勝手に解釈しておこうと思う。
2010年代以降のポストハードコアを語る上で欠かせないのが、電子音の積極的な導入だ。これにより、バンドのサウンドはよりプロダクトライクになり、商業的な側面を強く意識したプロダクションが主流となった。
かつてのポストハードコアが持つ生々しいサウンドとは異なり、シンセサイザーや打ち込みのリズム、エフェクト処理されたボーカルなどが多用され、音楽はより洗練されたものへと変化した。この方向性は、バンドがより広いリスナー層を獲得しようとする動きと連動していると言える。
この時期のポストハードコアは、メタルコアとの境界線が非常に曖昧になった。多くのバンドがブレイクダウンを取り入れ、スクリームとクリーンボーカルを使い分けるスタイルは、両ジャンルに共通している。
しかし、ポストハードコアは、典型的なメタルリフよりも浮遊感のあるクリーンパートやアルペジオを多用し、そこに電子音を組み合わせることで、メタルコアとは一線を画すサウンドを築き上げてきた。つまり、ヘヴィネスの表現方法が、リフ中心のメタルコアとは異なり、テクスチャや雰囲気に重点を置くようになったのだ。
現在のポストハードコアは、もはやジャンルそのものの定義が非常に難しいものになっている。典型的なメタルリフが少なく、オルタナティブロックにしてはヘヴィでスクリームもあるといった、既存のジャンルに当てはまらないバンドたちが、都合の良い「ポストハードコア」という枠組みに押し込まれる傾向がある。
このジャンルは、固定された音楽的特徴を持つというより、むしろ「ポスト」という言葉が示すように、従来のハードコアやメタルコアから逸脱した多様なサウンドを包括する役割を果たしている。その曖昧さこそが、2010年代以降のポストハードコアが持つ最大の個性であり、新しい音楽的試みを可能にしている要因なのかもしれない。
とはいえ、各時代で全く違う音楽性を持ちながらも、どれも確実に「ポストハードコア」と呼べる何かを持っている。それは単純な攻撃性を超えた複雑さであり、感情的な深みであり、そして常に新しいものを求める実験精神なのかもしれない。
だからこそ、冒頭で触れたように世代によって異なる答えが返ってくるのだろう。それぞれの時代のポストハードコアは、その時代のリスナーにとって確実に「本物」なんだ。これほど変化に富み、それでいて一貫性を保ち続けるジャンルは珍しい。
音楽の面白さは、こうした発見と探求にある。一つのバンドを気に入ったら、そこから派生する無数の音楽の糸を辿っていく楽しさ。年代を遡ったり、影響関係を調べたり、関連バンドを探したり。
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